プロローグ

闇に消えた名がある。
京の路地裏で、そっと囁かれるその名は、
恐れと共に、時代の奥へ沈んでいった。

―人斬り以蔵。

血に染まった剣の、その奥に、誰かの涙があったのなら。

土佐に生まれ、
剣に生き、
志に殉じ、
裏切りに耐え、
信じた者にさえ捨てられ、
それでも己の手を汚し続けた、ただ一人の男。

岡田以蔵。

志士と呼ばれた者たちの中で、最も美しく、
最も哀しい魂の記録を、いま、語ろう。

忘れられた英雄の、ほんとうの姿を。